近年、サステナビリティ(持続可能性)という言葉をよく聞くようになり、SDGsという言葉もよく見かけるようになりました。SDGsとは2015年9月、国連サミットにより採択された持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)の略称です。同サミットでは、「誰一人取り残さない」という理念のもと、17の目標とそれを実現するための169のターゲットが制定されました。
その17の目標の中には「すべての人に健康と福祉を(目標3)」、「海の豊かさを守ろう(目標14)」など、栄養改善の取り組みに繋がるものや食資源に繋がるものなど食と栄養に関わる目標が盛り込まれています。世界的にみると10人に1人が低栄養(飢餓)、3人に1人が過栄養(肥満)であるという現状や、世界人口の増加に伴う食料不足が問題となっています。
日本でも過栄養による生活習慣病は健康的な生活への影響が大きく、シニア世代になると食事量が落ちる事での低栄養になることもあり、健康寿命延伸の為には、過栄養・低栄養どちらも重要な課題となります。また日本は食料輸入が多いため、食資源の重要性も今後更に増してくることが予想されます。健康的な食と栄養への取り組み、食資源のサステナビリティについては、次の時代を担う若い世代だけでなくシニア世代も含め、重要な課題の一つとなっています。
出典:国際連合広報センター
国際的な共同団体であるSBT イニシアチブは、2021年のCOP26(スコットランド グラスゴー市)開催を機に、Net Zeroを含む温室効果ガス排出削減目標を、2100年までに産業革命前からの気温上昇を1.5℃に抑えるという新たな基準に改訂し、企業への参画と目標提出を呼び掛けて、目標への適合を宣言している企業も増えています。また一般消費者の「食」をとりまく意識についても、例えばヨーロッパでは、猛暑日数の増加や自然災害の発生など気候変動を実感している人が多く、食資源と気候変動の関係性も頻繁にニュースで取り上げられていることもあり、持続可能な社会に向けた取り組みが世界的に広まる中、一般消費者にエシカル消費の意識が浸透し拡がってきています。エシカル消費は食の分野でも広がっており、環境に配慮した食材への消費行動が見直されています。
フレイル予防として積極的に摂取した方が良い栄養素であるタンパク質についても、畜肉や魚肉などの食材の環境負荷の影響面から関心が世界的に高まっており、シニア世代にとってもこれからますます関連性が高くなることが予想されます。
出典:「気候変動監視レポート2020」気象庁
タンパク質は筋肉や皮膚・骨など、人の体を形成するために欠かせない栄養素で、前述の通りフレイル予防として積極的に摂取した方が良い食材の一つです。タンパク質を構成する必須アミノ酸については、体内で生成することができないため、常に食事により摂取し続けなければいけません。一方でタンパク質が豊富に含まれる食用肉は、その生産過程で穀物飼料や水資源を必要とするほか、生育途中で発生するメタンガスは地球温暖化の促進につながります。食用肉と同等に優れたタンパク源である天然魚などの水産物も、気候変動の影響でその漁獲量は減少傾向にあります。家畜などの輸送に使われるエネルギー、CO2の排出についても地球環境への影響が注目されています。
こうした状況の中、今後世界人口が増え続けていくと食用肉や水産物の生産が限界に達し、早ければ2030年ごろに消費が生産を上回る「タンパク質クライシス」に陥ると推測されています。特にフレイル予防のためにアミノ酸バランスの良い良質なタンパク質摂取が必要とされるシニア世代にとって、この「タンパク質クライシス」は今後大きな課題になることが予想され、持続可能性の面で代替タンパク源など多様なタンパク質摂取が今後ますます重要となってきます。
出典:ちとせ研究所
持続可能な食料供給と栄養補給を実現する代替タンパク源として大豆ミートなどの植物性代用肉が注目されており、海外ではエシカル消費の一環としてその需要が伸びています。植物性代用肉は牛や豚などの食用肉に比べ、生産過程での環境への負荷が低いこと、脂質の低さや食物繊維の多さがその特長です。ただし、アミノ酸バランスなど栄養の観点では、食用肉に比べ足りないものがあるため、偏った食事にならないように気を付ける必要があります。
また、次世代のタンパク源として、昆虫食、猪や鹿などのジビエ肉も見聞きすることが多くなってきました。これらの食材は入手も難しく一般に浸透するには時間がかかることが予想されます。
エネルギー(kcal) | タンパク質(g) | 脂質(g) | |
---|---|---|---|
牛肉(和牛・サーロイン・赤肉・生) | 294 | 17.1 | 25.8 |
豚肉(ロース・脂身付・生) | 248 | 19.3 | 19.2 |
銀鮭(養殖・生) | 204 | 19.6 | 12.8 |
鶏卵(生) | 142 | 12.2 | 10.2 |
米(水稲穀粒・精白米・うるち米) | 342 | 6.1 | 0.9 |
小麦(小麦粉・薄力粉・1等) | 349 | 8.3 | 1.5 |
さつまいも(皮付・蒸し) | 129 | 0.9 | 0.5 |
じゃがいも(皮なし・蒸し) | 76 | 1.9 | 0.3 |
大豆ミート(黄大豆・国産・ゆで) | 163 | 14.8 | 9.8 |
鹿(ニホンジカ・赤身・生) | 119 | 23.9 | 4.0 |
猪(脂身付・生) | 249 | 18.8 | 19.8 |
出典:「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」文部科学省
現在の日本人のタンパク質摂取量は、炭水化物が豊富なインスタント食品の普及や高齢化による食事量減少のために1950年と同水準まで落ち込んでいます。特にシニア世代はタンパク質不足により低栄養状態を招きやすく、フレイル予防のためには日頃から食事による適切なタンパク質の摂取が必要です。タンパク質は食品ごとにアミノ酸の組成や吸収率などが異なります。その評価基準として広く知られるのが必須アミノ酸のバランスを評価する「アミノ酸スコア」です。100に近いほど良質なタンパク源とされます。もう一つ近年注目されている評価基準が、必須アミノ酸の消化・利用効率を総合的に判断することが可能な「DIAAS(消化性必須アミノ酸スコア)」です。この評価基準で評価すると動物性タンパク質の効率の良さが認められますが、脂質も比較的多く、過剰な摂取は高血圧や高血糖などの原因となります。一方で日本のシニア世代も多く摂っている大豆や米などの植物性タンパク質は低脂肪で低カロリーですが、一部の食材では必須アミノ酸が不足しています。
近い将来訪れると予測される「タンパク質クライシス」を見据え、大豆や藻類を活用した新しいタンパク源食材も含めて、多様な食材から動物性と植物性のタンパク質をバランス良く摂取することが重要になります。また足りない分はプロテイン、アミノ酸等のサプリメント等で補うなどの工夫も必要です。
出典:「国民健康・栄養調査(令和元年)」厚生労働省
植物性タンパク質 | 動物性タンパク質 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
大豆 | とうもろこし | 牛肉 | 豚肉 | 鶏肉 | 牛乳 | 卵 | |
アミノ酸スコア | 100 | 69 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 |
DIAAS (消化性必須アミノ酸スコア) |
99.6 | 42.4 | 111.6 | 113.9 | 108.2 | 115.9 | 116.4 |
出典:「アミノ酸スコアブック」Luvtelli
Tryon Wickersham et al.Protein Supplementation of Beef Cattle to Meet Human Protein Requirements
協賛会員企業や協力団体においても、さまざまな食のサステナビリティに取り組んでいます。